お金のために仕方なく仕事をしていたけども……
「仕事だからきちんとしろ!」
アルバイトでも、社会に出ても、上司からこの言葉をよく突きつけられていた。
「これはお前の仕事なんだから」
私はその言葉を聞くたびに、少し後ろめたい気持ちになり、モヤモヤが心の中に芽生えてきた。
こんなこと自分がやりたい仕事じゃない。
自分がやりたいことだけに向きあいたい。
そんなことを思い描いていた。
最初にこのことを強烈に感じたのは撮影所でアルバイトをしていた時だった。
私は昔から映画が大好きだった。
どれくらい好きだったかというと学生時代に年間350本の映画を見て、TSUTAYAから年賀状が届くくらい映画を見まくっていたのだ。
(今思うと、なんでこんなに映画を見ていたのかよくわからないのだが)
映画を見まくっては、アホみたいに映画を撮りまくっていた。
大学時代には、毎日のように撮影で走り回り、あたかも自分は一介の映画監督になった気分でいたのだと思う。
そんな映画マニアだった私は、自然と映画の撮影所の現場を見たくて、うずうずしてきた。
ある時、家の近所にある撮影所でアルバイト募集の掲示が貼り出されていたので、私は飛びつくようにアルバイト採用に応募をした。
2、3日後に早速面接が決まった。
撮影所の所長みたいな人が来て、私は必死に
自分がどれだけ映画が好きか?
どれだけ撮影所のアルバイトをしたいか? を伝えていったと思う。
「ま、明日から来てみて」
私は採用が決まり、舞い上がっていた。
夢にまで見た映画撮影所の仕事である。
どんな世界が待っているのか……
私は興奮しながらも撮影所のアルバイトに向かった。
結果的に言うと、すぐに辞めてしまった。
超過酷だということもあったが、何よりも雑務の多さに耐えられない自分がいた。
撮影の現場に訪れたことがある人なら一度は痛感したことがあると思う……
映画やテレビドラマの撮影は、ものすごく時間がかかる上、待ち時間が異常にあるのだ。
ワンカットを撮ったら、照明やカメラのセッティングを直し、役者を踏まえてリハーサルを行い、2カット目を撮っていく。
特に照明のセッティングに時間がとてもかかる。
何回もリハーサルを行い、役者の顔に合わせ、照明を照らしていくのだ。
その照明のセッティングの際に、ケーブルを巻いたり、電源を入れたりする雑用をしていたのだが、とにかくそれは過酷だった。
約32時間ぶっ通して立ちっ放しである。
ドラマでもテレビの世界はみんなアシスタントからスタートする。
どこかクリエイティブで刺激的な世界に見えるが、実際は泥臭い仕事が多いのだ。
何10時間も照明を持って走り回り、弁当を手配したり、タクシーを呼んだり、自分より何歳も若い女優さんに頭をペコペコして、敬語を使わなければいけなかったりで大変である。
「好きなことをやっているんだからいいでしょ」
という人も多いが好きだからこそ、辛い一面もある。
映画の世界は過酷な肉体労働でもあったりする。
私は結局、その過酷な雑務に耐えられなくなり逃げ出してしまったのだ。
飲食店のアルバイトも長くは続かなかった。
心のそこでお金のためだから仕方なくやっているという感情が邪魔して、仕事にのめり込めなかった。
自分は本来、のびのびとしか環境で働きたいんだ……
物事を理解することが人一倍遅い私は、自分のペースでのびのびと仕事ができる環境を追い求めていた。
社会人の先輩からすると完全なゆとり世代の甘えである。
雑務な仕事なんてやってられない。
自分にはクリエイティブな才能がある。
どこか広告代理店のクリエイティブな人なら、自分の存在を認めてくれるはず。
そんなことを思っていたのだ。
社会に出てからも、ワードで資料を作ったり、エクセルで見積書を出すのは、
自分が本来やりたかった仕事じゃない。
お金のためだから仕方ない。
そんな感情が芽生えていた。
さっさと仕事を終えて、自分の私生活を充実させようと思いながら仕事をしていたのだと思う。
そんな時、この本と出会った。
尊敬しているライターさんが「今まで出会ったビジネス書の中でトップクラスに人に勧めたい本」と言いまくっていたとあるビジネス書だ。
その本とは、ワタミを一代で築きあげた渡邉美樹社長の「強く、生きる。」だった。
この本を読んでいる時、社会に出ても「お金のためだから仕方ない」
と思いながら仕事をしている自分がとても恥ずかしくなってきた。
学生時代のアルバイトでも些細な雑務もきちんとこなさず、いつも逃げ出していた自分が恥ずかしくなってきた。
この本の中には、渡邉美樹社長の人生観や働くことへの考えが詰まっていた。
「仕事は人生そのもの。よく働くことはよく生きることに他ならない。したがって、
仕事をごまかすことは人生をごまかすことになるんです」
どんな些細な雑務もきちんとこなしてきた人は、数年後、その仕事のプロフェッショナルになり、顔に年輪が刻まれていき、いい生き方をしている良い顔になってくる。
世の中の仕事の99パーセントは雑務である。
そんな雑務もきちんとこなせない人間には、大事は望めないということが書かれてあったのだ。
仕事をきちんとこなす人はやはり人間性も高いと思う。
やはり、世の中で頭角を出してくる社長や経営者などは、ビジネスの才能があるのはもちろんだが、何よりも仕事を楽しみながらしている。
どんな雑務も楽しみながらやっているのだ。
仕事だから仕方ない。
お金のために仕事しなきゃと思っていた自分が情けなくなってきた。
自分はこんなことやりたかったわけじゃないと思って、雑務を適当にごまかしていた自分が恥ずかしくなった。
どんな些細な雑務でもきちんとこなせない人間は何をやってもダメなのだ。
私はこの本を読んでいるときに、そのことを強烈に感じた。
世の中の仕事は99パーセント面白くもない雑務である。
だけど、そんな雑務でもきちんとこなせる人が、遠回りになるかもしれないが、大事を成せるのだという。
私にとって、この本は人生の指針にもなる本になった。
仕事に悩むビジネスマンがいたら、一度は読んでみてほしい本だと思う。
この本に書かれてあることをきちんと心に刻み、私は今日も満員電車の中に飛び込んでいく。