何かに熱中することを忘れている大人がいたら、この本は起爆剤になるのかもしれない
「何でこの人はこんなに仕事に熱中できるのか?」
社会人をやるようになって、仕事でいろんなところに営業に出ていると、
何度か異常なほど仕事に熱中している人と出会うことが度々ある。
正直言うと、私はもともとサラリーマンという職業が嫌で仕方がなかった。
会社員となると、特に好きでもないのに、お金のために嫌々会社のいいなりになって、働いている人がほとんどだと思っていた。
実際、満員電車に乗っていると明らかに辛そうな表情をしたまま会社に通勤しているサラリーマンを多く見る。
学生の頃はそんなサラリーマンたちの姿を見て、
絶対自分はサラリーマンなんてやりたくない。
自分の好きなことを仕事にしたい。
そう思っていた。
結局、私は大学を卒業したのちに、海外を放浪するなり、転職するなりして
サラリーマンという道を選ぶことにした。
会社員になんてなりたくなかった。
だけど、実際に営業として飛び込み営業などをしていると、妙に営業と相性が良いことに気付いている自分もいる。
絶対に自分は人としゃべることが苦手だし、人の話を聞き取ることなんて向いてない。そう思っていたが、実際に飛び込み営業などをやってみるとどこへでも飛び込んでいける自分がいる。
学生時代にインドなどを放浪していたせいか、案外怒鳴り散らすような面倒なお客さんと遭遇しても、
「あ、この人怒鳴っているけど、あのインド旅行中にインド人10人に取り囲まれた時の恐怖に比べたら大したことないな」
そう思い、乗り切れる自分がいることに驚く。
なんでも実際にやってみないとわからないもんだな。
そう思い、忙しい毎日を送っているが、どうしても心の中にぽかんと穴が空いている感覚がある。
何か忘れてはいけないはずの感覚。
何だろうか。
子供の頃はずっと心の奥底で燃え上がるようにしてあったあの感覚。
目の前の仕事の山に集中していると、どうしても自分が本来熱中していたものを忘れていってしまう。
自分の会社や営業先の人の中でも異常に自分の仕事を誇りに思い、仕事に熱中して取り組んでいる大人が私の周りには数人いる。
そんな人たちを見ていると私は、
「どうしてもこの人たちには勝てないな」と思ってしまう。
些細なことでも自分の仕事に誇りに思い、働いている人たちがいることで社会が回っていることに最近になって気が付き始めた。
大学の頃は、人よりも上に立ちたい。
多くの人に認めらたいと思って、広告代理店やマスコミなどのちょっとクリエイティブな世界を目指していた。
クリエイティブな人こそ、一番偉いと思っていた。
だけど、世の中には人知れず、些細なことでも誇りに思って、仕事には励んでいる人がいる。
たとえ、駅のゴミ拾いでもきちんと丁寧にゴミを掃いている掃除のおばちゃんを見ると、本当に人として素晴らしいと思ってしまう。
自分は何に熱中できるのだろう?
もちろん、仕事中は仕事に集中して取り組んでいるつもりである。
だけど、どうしても何か心の中にぽかんぽかんと穴が空いていく感覚がある。
何だろう、この感覚。
自分が生涯をかけて熱中できるものは何なのだろうか?
そんなことを思っている頃、この本と出会った。
本屋で見かけたとき、
「何だ、この黒光りしている本は!」と思ってしまった。
黒く光り、中心部分には「ナイキ」のマークが飾られているのだ。
それはナイキの創業者の自伝的なビジネス書「SHOE DOG 靴に全てを」である。
ドラマの「陸王」に興味を持っていたこともあり、私はこの本を手にとって読み始めてみることにした。
最初の5ページを読んだ時には、もうすでに本の物語の世界に熱狂してしまっていた。
何だ、この心が燃え上がる感触は。
そこには一人の若い起業家が「ナイキ」というブランドを世界に羽ばたかせた熱い人間ドラマが描かれているのだ。
数ページ読んだだけで直感的にこの本はしっかりと読まなきゃいけない本だと思った。
すぐに本を買い、毎日の通勤の時間で読むことにした。
暑さが指二本分ほどの分厚い本である。
ビジネス書の中でもだいぶページ数が多い部類に入ると思う。
しかし、本の分厚さなど忘れてしまうのだ。
時間を忘れてしまうくらい良いふけってしまうのだ。
やばい、この本は面白い。
あまりにも「ナイキ」のストーリーに魅了されてしまい、トイレ中でも隠れて読み始めてしまうくらい熱中してこの分厚い本を読んでしまった。
そこには、「ナイキ」というブランドが形成されていくまでのストーリーが書かれてあった。
人間ドラマの小説としても面白いし、起業家たちのビジネス書としても明らかにトップクラスの情報が詰め込まれているのだ。
なんだ、この本は。
なんでこんなにも面白いんだ。
24歳の若き起業家フィル・ナイトがいかにしてオニツカタイガー
(現アシックス)から靴を買い取り、アメリカへの輸入取引を成功に導いたのか。
そして、オニツカから独立し、いかにナイキという独自のブランドを形成していったかが事細かく書かれてある。
何度も何度も著者であり、ナイキの創業者であるフィル・ナイトは繰り返し、成功の秘密を書いている。
若い頃は百科事典の商売は失敗し、やっとの思いで雇われた会社も結局やめてしまい、ようやく天職と思えるシューズを売る仕事に出会えたという。
彼が百科事典の商売がうまくいかず、シューズの商売はうまくいった理由。
この言葉がずっと本全体に浸透するかのように、何度も何度もキーワードとして出てくるのだ。
シューズの商売が成功した理由、それは「信念」があったからだと。
フィル・ナイトは大学時代も陸上を続け、心の奥底から走ることを信じていたという。みんなが毎日数マイルを走れば、世の中はもっと良くなるはずだし、ナイキのシューズを履けばもっと走りが良くなると信じていたのだ。
「信念」こそは揺るがない。
そう何度も本に書かれてあるのだ。
この本を読んでから私は結構考えてしまった。
私は何かに「信念」を持って取り組んでいるのだろうか。
一生涯をかけてやりたいことって一体なんだ?
「天職がわからなかったら探せ」
フィル・ナイトは最後のまとめで若い人へ向けてのメッセージを発していた。
自分の天職など未だにわからない。
だけど、この本を読んでから少し心の中の霧が晴れたような感じがする。
今、起業をしている人が読んでみるのもいい。
また、自分のように天職を探してさまよい歩いている人が読むのもいい。
きっと、負け犬としていろんな銀行から叩かれながらも己の信念を捨てず、
ナイキを世界的企業へと成し遂げたフィル・ナイトの生き様に心が揺さぶられるだろう。
自分が心のそこから湧き上がる「信念」、それさえあれば人の心を動かすのだと。