弱さを武器にして
「なぜ、自分はこうも弱いのか?」
私は、ずっとそう思っていた。
就活も無駄なプライドから大手企業ばかりを受け、30社以上落ち、せっかく新卒で入った会社も数ヶ月で辞めてしまった。
人一倍、自分の弱さというものを気にして生きていたのかもしれない。
なぜ、自分は弱いのか?
その思いが、私を突き動かして、海外の放浪の旅に出かけて行った。
社会のレールにうまく乗れなかった自分。
常に人を上から目線で見下し、ずっと自分の居場所を追い求めていた自分。
そんな自分に一回嫌気がさし、すべてを放り投げて海外放浪に出たのだ。
バンコクには自分と同じような境遇の人たちがいっぱいいた。
30歳手前で、脱サラし世界一周の旅に出た人。
自分探しを続けている大学生。
200万円の貯金が作るまで帰ってこないと決め、2年間世界を放浪している旅人。
そんな人たちがバンコクには集まっていた。
バックパッカーたちは毎晩、明け方まで飲み会に明け暮れていた。
「日本なんて居心地悪い」
「やっぱり海外の方が住みやすいね」
そう語っている旅人がいる中、私だけが妙な違和感を覚えていたのだ。
何だろうこの違和感。
そこにいるバックパッカーの人たちはみんな、どちらかというと日本社会にうまく馴染めなかった人たちだ。私も同じだった。
必死に自分を見繕って社会の枠の中でハマろうと努力してきたつもりだった。
しかし、どうも集団行動というものが苦手で、いつもどこか社会の中で違和感を抱えてきた自分がいたのだ。
自由を追い求めて旅に出ているバックパッカーの人たちは、自分が憧れていたものだった。
社会の枠組みにはまらずして、世界を放浪する旅人。
ありのままの自分を保っているように見えて、ずっと憧れを抱いていたいのだ。
しかし、実際にバックパッカーたちとあっていると妙な違和感があったのだ。
「この人たち、所詮日本から逃げているだけだ」
思ってはいけない……言ってはいけないと思っていても、ついつい考えてしまうのだ。
自由気ままに世界を旅している人たちの目はみんなキラキラしていた。
みんな自分の旅を生き生きと語り、「ここではこんな人たちと出会った!」
「こんな人たちと仲良くなった」
みんな自由な旅の魅力について語るが、
「ところであなたは何をしてきた人なの?」
とその人自身のことを聞いてみると何も返事がなかったのだ。
外に刺激を追い求めているだけで、その人自身は空っぽな気がしていた。
「この人たちやっぱり逃げてきただけだ」
自分も日本にいた時、勤めていた会社を逃げ出し、海外に逃げて来ただけだった。
自分こそ逃げてきたのだ。
それにもかかわらず、世界を旅しているバックパッカーを心のそこで侮辱している自分がいた。
そんな自分が一番カッコ悪いと思ってしまった。
自由を求めて海外に来た。
海外なら自分の居場所があると思っていた。
しかし、どこに行っても自分の居場所など存在しなかったのだ。
自分の居場所は自分で見つけるしかないのかもしれない。
日本で生きていた時は、私は無駄な虚栄心の塊だった。
就活では何がなんでも人より上に立とうと大手企業ばかり受けて、30社以上落っこちた。
何者かになりたい。
何者かにならなくてはいけない。
そんな思いがぐるぐると私の頭の中で回っていて、自分で自分の首を絞めていくように就活に挑んでは落とされまくっていた。
何で自分の凄さをみんなは認めてくれないのか?
自分はきっとくりエイティブな素質がある。
そんなことを思い、自分の殻に閉じこもっていた。
結局、そんな自意識過剰な性格だった私は、せっかく入った会社も辞めてしまうことになる。
なぜ、自分はこんなにも弱い人間なのか?
肥大化する承認欲求に振り回され、私はその時、本当に身動きが取れなくなってしまった。
海外にいっても自分の居場所を見つけられなかった。
それならどこに向かって歩けばいいんだ……
その時、とあるライターさんが書いた文章にとてもとても惹きつけられた。
「強さ一色で塗りつぶされた社会の何が面白い」
そのライターさんは就活の時、パニック障害にかかり、無内定のまま大学を卒業していったという。いろんな職業を転々とし、結局ライターという職業にたどり着いたという。
何で自分は人と同じことができないのか?
なぜ自分は弱い人間なのか?
そのことを思いな悩み苦しんだ果てに、ライターという職業にたどり着いたという。
私はその方が書いた書評記事を読んで本当に感動してしまった。
弱さイコール強さの欠場ではなく、弱者が弱さを持つがゆえに、強者以上の力を発揮し、弱さが人間の魅了ともなっている部分を解き明かしていく。
「弱さを持つことは致命傷になり得るが、新たな強さの契機にも成り得る」
社会はますます弱さを抱えている人には居心地が悪いものになっているのかもしれない。
強さ一色で塗りつぶされ、私のような弱さを抱えた人にはとても生き辛い気がするのだ。
派遣切りが当たり前のようになり、ますます社会は強者と弱者に分かれていく。
そんな社会の何が面白いんだとそのライターさんは魂を込めて書いていた。
私はまだまだその領域にも達していないが、いつかそのライターさんのような文章が書けるようになりたいと思うようになった。
弱さは強さの欠如ではない。
新たな強さの契機にもなり得る。
その言葉を信じて、今はひたすら書き続けるしかないのかもしれない。
どこの誰が読んでいるかもわからない。
それでも私は書き続ける。