ライティング・ハイ

年間350本以上映画を見た経験を活かしてブログを更新

大の邦画嫌いの私でも、この日本映画だけは涙無くして観れなかった

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「久々に面白い邦画と出会った」

以前からお世話になっている映画好きの方からこんなことを言われた。

 

その方は大の映画好きで、黒澤明などの昔の巨匠の映画が好きだということもあって、どこか自分ととても映画の好みが合う方だ。

 

その方が大絶賛している邦画があった。

「邦画は基本的に胸糞悪いものばかりで見ないけど、この映画だけは違った。

久々に邦画を見て感動した」

 

映画に関してはだいぶ辛口のコメントをするその方が大絶賛している邦画があったのだ。

 

私も基本的に邦画は苦手だ。

最近は、なんだか可愛い顔した女子高生が出てきて、なんだかイケメンが登場してイチャつくような物語ばかりで、こんなんで日本映画って大丈夫なのだろうか? と正直思っていた。

 

自分も映画が大好きだが、基本的に見るのは9割以上が洋画である。

ハリウッドの映画を見て育ってきた影響もあって、邦画を見ても、どこか島国っぽくて閉鎖的な空気感が漂う感じがして、どうしても感情移入できないのだ。

作りての思いというか作家性が感じられなくて、どうしても見れないのだ。

 

 

そんな大の邦画嫌いの私だったが、同じく邦画嫌いのその方がやたらと絶賛している日本映画が気になって仕方がなかった。

 

その映画のタイトルはもちろん知っていた。

正直言ってしまうと、原作は読んでいた。

 

本屋大賞を受賞して、本屋に行けば平積みされており、気がついたら買って読んでいた。

 

本屋大賞だって。

日本人って本当に賞を取ったものに弱いよな。

そんなことを感じながら読んでいったが、本の世界に度肝抜かれてしまった。

 

それは音楽を支えるある職人さんの物語である。

ピアノの奏でる音楽を支える人たち。

 

その物語に感動してしまい、涙なくして読めなかった。

もちろん、映画化されることは知っていた。

だけど、原作があまりにも良すぎて、映画の方は見る気が起きなかった。

どうせまた、女子高生とイケメンが出てきて、イちゃつくだけの映画になってしまうのではないのか?

 

そんなことを懸念していて、トレーラーは見ていたが、どうしても見る気が起きなかった。

 

「青年の目が、明らかにアナログのものを見つめる目なんだよ。本当に素晴らしい作品なんだ」

そう絶賛するその方の声を聞いて、私はその邦画が気になって仕方がなく、週末になると見に行くことにした。

 

映画館に入ると驚いた。

ほぼ、観客性は女性ばかりだ。

男性はほぼいないんじゃないかと思った。

 

映画が始まると、オープニングからキレイな雪の景色が広がっていた。

窓についた氷の結晶。

それがどれも美しかった。

 

私は野生の直感的にこの映画すごいと思った。

映画が始まって1分も立たないうちに、一気に映画の世界に引き込まれていった。

 

そして、原作で読んだ主人公が人生の師となる人物と出会う場面に入った。

 

音楽が体育館に流れた時、一瞬森の景色がスクリーンに映り込む。

 

「あ、こういう風に映像にしたのか」

 

小説を読んでいるときは、各々が物語のイメージを脳裏に焼き付けて読んでいく。

そのイメージは本を読んでいる読者によって、異なるだろう。

だけど、映画となるとどうしても一方的なイメージしか伝わらない。

スクリーンに映し出される絵は誰が見ても同じのため、同じイメージが観客の脳裏に焼き付くことになる。

 

だけど、この映画は、小説では描けなかった部分を映像にしていく。

それは映画でしかできない表現だった。

 

音楽と森の描写。

それが映像とリンクしていて、心地よいメロディを奏でている。

 

私はあっという間に映画の世界に惹かれていった。

原作を読んでいるため、物語の展開は知っていたが、音楽と映像が奏でる世界観に良い浸ってしまった。

あまりにも美しい自然の描写、そこに暮らす人々の姿。

 

どこか日本人が忘れてはならない感情がそこには眠っている気がしたのだ。

 

そして、物語の後半になり才能に苦しむ主人公に、ある人物はこう投げかける。

 

「才能っていうのは、ものすごく好きだという気持ちなんじゃないかな。どんなことがあってもそこから離れられない執念とか、闘志とかそんなものに似ている」

 

原作でもこのセリフを読んだ時、感動してしまったのを覚えている。

才能に苦しむ主人公。必死に音楽と向き合うからこそ、自分の才能のなさを痛感して、もがき苦しんでしまう。

 

それでも主人公は、音楽の世界に戻っていき、音楽が生み出す深い森の世界に身を捧げていく。

 

その森に一度足を踏み入れてしまうと自分の力で来た道を戻っていくしかない。

だけど、主人公は音楽が奏でる深い森の世界をきちんと見つめていく。

 

2時間以上あった映画だが、あっという間だった。

時間を忘れて音楽と調律師の物語の世界に入ってしまった。

 

自分の才能に苦しんでいる人……

あるいは、自分のように人生の目標を見つけられず、もがき苦しんでいる人がいるかも知れない。

 

そんな人にとって、この映画は特別な薬になるのかもしれない。

どこか心を落ち着かせてくれる、心の拠り所になる映画になるかもしれない。

 

多くの人が原作のことを絶賛していた。

だけど、映画の方も素晴らしかった。

 

映画だからこそできる表現が、物語の中にあふれていて、時間を忘れてしまうくらい物語の世界に入り込んでしまう。

 

ピアノと調律師の物語……「羊と鋼の森」。

原作も凄かったが、映画の方も素晴らしかった。