ライティング・ハイ

年間350本以上映画を見た経験を活かしてブログを更新

「狂」としか言いようがない圧倒的な名演をこの目に見せつけられた。

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「この映画だけは絶対見たほうがいい」

先日、映画好きの方が集まる会に久しぶりに参加した時、いつもお世話になっている方からこんなことを言われた。

その方は大の映画好きで、お会いするたびについつい映画の話ばかりしてしまう。

 

「この映画だけは絶対に見たほうがいい。見なきゃだめだ!」

どこか好きな映画の波長が似ているその方がここまでおっしゃるなら、

さぞかし名作なのだろう。

 

その映画のタイトルは知っていた。

確かにトレーラーを見る限り、名作の予感が漂っていた。

 

ハリウッドの名俳優ゲイリー・オールドマン主演の

ウィンストン・チャーチル ヒットラーから世界を救った男」。

 

トレーラーを見たときに、なんだか面白そうだな……

機会があれば見に行かなきゃなと思っていた。

 

だけど、なんだかんだ4月、5月と仕事でバタバタしてしまい、見に行く時間を持て余していた。

 

すでに6月になってしまい、上映している映画館なんてもうないだろうな。

DVDが出たときに見ればいいや。

そう思い、見るのを半ば諦めていたのだ。

 

「この映画は絶対に見たほうがいい。本当に見たほうがいい!」

映画好きのその方に嫌という程熱く語られ、なんだか自分の心も動いてしまった。

 

今、都内の映画館でやっているところあるかな?

渋谷とかのミニシアターなら公開から2ヶ月以上経っても上映してそうである。

 

だが、調べてみると都内で上映している映画館は皆無だった。

そうだよな。二ヶ月以上前に公開した映画を上映してくれている映画館なんてないよな。

やっぱり映画じゃなくて、DVDで見ればいいや。

 

そう思い、映画館で見るのを諦めかけていた時、ふとネットに上がっていた

埼玉の映画館の公開情報に目をやった。

 

う、やっている?

 

大宮にあるイオンシネマだけが上映していたのだ。

 

自分が住んでいるのは調布市近辺である。

電車で大宮まで1時間以上かかる。

 

休日で移動するにはなかなかの距離である。

どうしようかな。

レンタルが始まるまで待つかな。

 

 

だけど、どうしてもこの映画は映画館で見なきゃいけない。

そんな直感が働いていた。

 

後世にも語り継がれるような名作はなるべくならテレビやPCの中ではなく、

眼の前に広がるスクリーン上で見たい。

というよりむしろ、なぜかわからないが、この映画だけは今、見なきゃ!

そんなことを感じたのだ。

 

大宮まで行くか。

 

そう思いたち、休日でのんびりする暇もなく、朝から電車に飛び乗り、埼玉県の大宮に向かうことにした。

 

新宿からだと40分くらいである。

最寄りの駅からイオンシネマまで15分以上歩いた。

(なぜ駅の近くにショッピング施設を作らないんだ!)

 

 

公開から二ヶ月以上経っているためか映画館の中はガラ空きである。

ほぼ、席に自分しか座っていない。

 

席に座り映画が始まるのを待つ。

 

映画が始まった。

オープニングでの国会の討論シーン。

ヒットラーの侵略からどうイギリス本土を守るべきか?

次の首相は誰にすべきか?

 

そんなことが議論されている中、カメラは天井から白熱した討論を繰り広げている議員たちにフォーカスしていく。

 

オープニングを見た瞬間、

「この映画は普通の映画じゃない!」

そう思った。

 

ワンカット、ワンカットの演出や作り込み具合が半端ないのだ。

議長の部屋に差し込んでくる朝焼けの光、一つ一つが徹底的に計算され尽くされていて、どうみても戦時中の1940年代のイギリスの光景にしか見えないのだ。

 

そして、主人公であるチャーチルが登場するシーン。

どっぶりと太った容姿に滑舌が悪く、タイピストを罵倒するシーン。

もはや演技には見えなかった。

 

チャーチル役をやっているのがゲイリー・オールドマンだとは知っていた。

特殊メイクが優れていて見た目がチャーチルそっくりなのがわかる。

だけど……

声も、仕草も、言動も、食べ方も、すべてチャーチルにしか見えないのだ。

 

圧倒されるような演技を見せつけられ、どこからどう見てもチャーチルがスクリーンの中を歩き回っているようにしか見えない。

 

こ、これが演技なのか。

気が狂ったまでに洗練され、昇華されている演技力に驚いてしまった。

 

これが、本物の名演なのか……

 

 

そして、物語は後半に続く。

史上最大のダンケルク撤退作戦を前に、政界で闘争を繰り広げるチャーチル……

 

この映画の原題は「darkest hour」という。

ナチスドイツが暴走を始め、ヨーロッパ全土に侵略戦争を仕掛けていた時、

アメリカも他国も無関心を装っていた。

1940年はイギリスだけがナチスに徹底抗戦を挑んでいたという。

 

フランスも陥落寸前で、本当にヒットラーが世界を征服するかもしれないという恐怖で覆われ、真っ暗闇の時期があった。

そんななかでもチャーチルだけは「最後まで戦え」と信念を貫き通していた。

 

いま現在の私たちは、連合国がナチスドイツに戦争で勝利し、第二次世界大戦終結することを知っている。

 

しかし、当時の人は海の向こうで、今にもヒットラーが本土に侵略をしかけてこないか不安で仕方がなかったと思う。

 

そんな恐怖に覆われ、暗闇の中でも自国の勝利を信じて、ある種の盲信で人々に鼓舞し続けていた人物がいた。

 

スクリーンの前で繰り広げられるチャーチルの演説を見ているうちに、気がついたらポロポロと涙がこぼれてきてしまっていた。

 

チャーチルにあったのは、異常なまでの負けず嫌いだったのかもしれない。

政界一の嫌われ者だったが、異常な負けず嫌いと自己の盲信だけで首相までのぼりつめたのかもしれない。

 

だけど、危機にひんしたときに見せた、信念としかいいようがない説得力。

国土が崩壊しても、何が何でも戦いに勝つことができるという、盲信が国民を動かしたのかもしれない。

 

 

結局何かをやり遂げる人は才能とかの前に、信念というか、ある種の盲信があるかないの違いかもしれないと、この映画を見ているうちに思ってしまった。

 

昔、ある人に自分はこう言われたことがある。

「人はなりたいと思った人になる」。

 

その方は25歳で単独でニューヨークに飛び込み、世界中で活躍する料理人になっていた。

何が何でも世界一のシェフになると単身で飛び込み、ハリウッドでも活躍する料理人になったという。

 

 

ニューヨークは夢追い人の街だ。

「プロのカメラマンになれると信じて疑わなかった人はプロのカメラマンになれたし、カメラだけでは食べていけないと思っていた人は結局、その通りになった」

そんなことを教えてくれた。

 

チャーチルが今なお、偉大なリーダーとして崇められているのはやはり信念というか、盲信があったからかもしれない。

 

何が何でも自分はこうなれる。

戦いに勝つことができると信じて疑わなかった盲信が人の心を動かしたのだ。

 

チャーチルの演説シーンを見ているうちに、自分は映画を見ているのかどうかもわからなくなってしまった。

 

なんだか映画の中で描かれていた物語以上のものを自分は受け取った気がするのだ。