ライティング・ハイ

年間350本以上映画を見た経験を活かしてブログを更新

私たちはもっと日本古来のものから学ぶことがある気がする    

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「これはスティーブ・ジョブズが生前愛読していた本です」

大学時代、とある授業で先生がそう語っていた本をよく思い出す。

 

私は学生時代、基本的に授業中寝てばかりいたが、その先生の授業だけは真剣に聞いていた。

 

私が通っていた大学はギリギリなんとかMARCHという肩書きにすがりついているような大学で、自分が言うのもなんだが、授業を真剣に聞いている人もあまりいない大学だった。

 

私も学生時代は授業をサボって図書館にこもり、映画ばかり見ていて、

今思うと相当堕落した生活を送っていたと思う。

 

 

あまり真剣に勉強をする学生ではなかったが、とある授業だけは面白くて真面目に受けていた。

 

それは日本文化論の授業である。

文化論を担当していた先生は、数年前に芥川賞を受賞した作家さんだった。

(なぜ芥川賞作家の先生が、大学で教授をやっていたのかは今でも謎……)

 

芥川賞作家であり、しかも楽に単位をくれる(通称で楽単)の先生だったため、授業は全体で100人くらいの大人数が収容できる大教室で行われていた。

 

人数は多いが基本的に出席点さえカバーできれば単位が取れるので、ほぼ9割の人は寝ていた。

 

 

私も学期の前半は寝ていることが多かった。

しかし、先生が語る日本文化の根底にある、ある要素の話を聞いていると、

とても面白くなり、学期の後半は真剣にノートをとって勉強していた。

 

先生が授業中に語っていたとあるもの……

 

それは「禅」である。

 

私が授業を受けていた先生は、作家になる前は本気でお坊さんになろうと思い、

寺に入門しようと考えたことがあったという。

 

 

しかし、その後、何の縁かで小説を書くようになり、芥川賞にノミネートされたという。(その辺の経緯はあまり真面目に聞いてなかった)

 

授業中に語っていた「禅」という概念……

先生が小説家でもあることから、話は大抵クリエイティブな要素に展開されることが多かったが、とにかく日本のクリエイティブな部分と「禅」が密接に絡み合っているという話がとんでもなく面白かったのだ。

 

「禅」というとお坊さんが修行していたり、瞑想しているイメージが多いかもしれない。

私も先生の授業を受けるまで「禅」などに興味が全くなかった。

しかし、話を聞いていると日本古来から伝わる「禅」という直感的な思考法が、アップルやグーグルなどの世界トップクラスのクリエイター集団に少なからず影響を与えていることを知り、面白くて真剣に授業を聞いてしまった。

 

 

特に影響を受けてきたのはスティーブ・ジョブズだという。

ジョブズは若い時から「禅」というものに魅了され、一時期本気で京都の禅僧のもとに出家しようと考えるくらい「禅」に傾倒していたらしいのだ。

 

禅の根幹にある「雑音を捨てて、物事の本質を見抜く」という考えに相当影響されたのか、彼が作り上げたiphoneMacbookはとにかく直感的に触れて、デザインの本質的な部分を極限まで洗練されて作られている。

 

「自分の心の声を聞く」

ジョブズの人生観に多大なる影響を与えたと言われる「禅」……

 

作家でもあるその先生は、小説家などをはじめとしたクリエイティブな世界でも、いかにこの「直感力」というものが大切なのかをこと細かく生徒に語っていた。

(授業中ほとんどの生徒は寝ていたが)

 

私は「禅」を熱く語っている先生に影響を受けて、日本古来から伝わる「禅」とは何か? と興味を持ち、京都の寺に修行に行ってみることにした。

今思うと謎の行動力だ。

 

朝の5時に起き、夜の24時までぶっ通しで座禅をする生活を一週間ほど続けた。

座禅に集中しようとしても、スマホやメールなどで毎日情報に踊らされている現代人には頭の中を空っぽにすることは案外難しい。

 

 

なんとなく「禅」というものの感覚が分かり始めてきた時に、修行を終えて東京に戻ることになった。

 

今でも「禅」って何なのか?

とこと細かく語れるほど詳しくはない。

 

だけど、写真を撮るようになってから、この「禅」の本質的な部分と写真というものが思いの外つながっていると思うようになってきた。

 

 

写真も「禅」も本質的なことは「捨てる」ことだと思う。

 

目の前に見えている360度の景色のどこを切り取り、どこを捨てるのか? 

写真はファインダー越しに見える世界の切り取り方のセンスがとても問われるものな気がするのだ。

 

そして、頭の中で「この時はこういう構図で、この時はこれぐらいの光量で……」

などと理屈で物事を考えるよりも、

 

「あ! この景色いい」

と思った瞬間、直感でシャッターを切った方が案外いい写真が撮れたりする。

 

この直感的に物事を切り取っていく感覚が「禅」に似ている気がする。

 

 

 

この直感を大切にする「禅」の本質的な部分が、論理的な思考を大切にしている欧米人にとっては相当新鮮のようで、今でも京都の禅寺に通い詰めている外国人観光客が大勢いるという。

 

 

よく考えれば歴史に名を残す写真家も「禅」に傾倒している人が多かった。

 

アンリ・カルティエブレッソン、ソールライターなども、「禅」に傾倒し、浮世絵などの日本画をコレクションしていた。

 

19世紀の画家も「禅」の根本的な部分が詰まった浮世絵に相当影響されていたという。

 

アップルやグーグルのハイパークリエイティブな人たちも、

「直感的に物事を見て、余計な雑音は捨てる」

という「禅」に影響され、昼休みは瞑想に励んでいる社員も多くいるという。

 

 

世界に影響を与えている「禅」。

 

私たちは古くからある日本古来の文化や概念からもっと学ぶことがあるのかもしれない。

 

私は写真を通じて、「禅」の奥深さにちょっとずつ気が付いた。

 

 

 

 

 

 

ちなみにスティーブ・ジョブズが生前愛読していたと言われるのは

オイゲン・ヘリゲル著の「日本の弓術」。

論理的な思考を持ったドイツ人の博士と、日本古来の弓術の師範との交流を描いたこの本は、世界中で出版されるほどの名著。