「人よりも上に立ちたい」という、あの感情……
「人よりも上に立ちたい」
よく考えれば大学生の頃の私はこの感情に動かされて、空回りばかりしていたと思う。
「自分は他の人と何か違ったものを持っている」
「ちょっと人と違った職業に就きたい」
そんなことを思い、何かに取り憑かれたかのように映画ばかり見て、自主映画ばかり撮っていた。
「自分は人よりも上に立つことができるはず」
そんな無駄な自尊心に蔑まされて、就活の時もどこか他人目線でいる自分がいた気がする。
ちょっとクリエイティブな感覚を持っている自分ならどこかの広告代理店なら受かるはず……
そんなことを思い、アホみたいに倍率1000倍のマスコミ各社を受けて、アホみたいに落とされまくっていた。
「自分は何か特別なものを持っている」
そんな自尊心に動かされ、他人を心の奥底で侮辱している自分が嫌で仕方がなかった。
就活の時は30社以上落とされ、本当に精神的に気が狂っていたと思う。
「自分は結局何がしたいのか?」
新卒で入ったテレビ関係の制作会社も、5日連続で寝ずに働いた結果、電車に飛び降りそうになった。
「本当に自分は何がやりたいのか?」
「自分の仕事は何なのか?」
さっぱりわからなくなり、しばらく海外放浪の旅に出ていた時期もあった。
今思うと、何で学生の頃の自分はあれほど
「人よりも上に立ちたい」と願っていたのか不思議に思う。
とにかく「自分は何か人と違ったものを持っている」
「ちょっと違った感性を持っている」
と信じていたかったのだと思う。
そんな感情を抱きながら他人を心のそこで侮辱している自分が嫌で仕方がなかった。
転職活動をして、ようやくきちんと社会人として働くようになった今、
もう「特別になりたい」というあの感情も消えていったが、心の奥底ではきっとまだ持っているのかもしれない。
何だろう……この「人よりも上に立ちたい」という感情は。
そんな時、ふとこの映画と出会った。
映画のタイトルは昔から知っていた。
本国のアメリカでは超低予算映画にもかかわらず、スマッシュヒットを飛ばし、
出演者が次々とトップスターの仲間入りになった映画だ。
昔からこの映画のことは気になっていたが、ティーンエイジャー向けの恋愛映画と聞いて、どうしても見る気がしなかった。
どうも昔から恋愛映画というものが苦手で、邦画特有のキラキラした青春映画に見えて、どうしても手に取ってみる気がしなかった。
年末に見る映画をどうしようかと思い、TSUTAYAを歩いていると、
ふとこの映画のパッケージが見えた。
ま、一度くらいは見てもいいかな。
そんな軽い気持ちだったと思う。
やけに映画のパッケージのデザインが気になってしまい、気が付いたらレジに向かっていた。
どうせキラキラした青春映画だろう。
ま、暇つぶしにいいか。
そんな軽い気持ちで映画のストーリーも知らずに見てみることにした。
映画の本編が始まった瞬間、やばいなと思った。
あ、この映画やばい。
学生時代にアホみたいに年間350本以上も映画を見ていたせいで、最初のオープニングショットが映画全編の雰囲気を決めることは知っていた。
面白いと思う映画は、ほぼ100%……
オープニングからどこか人の心に突き刺さる何かがあるのだと思う。
野生の直感というか、人の脳内にイメージがこびりつくかのようなオープニングが後世まで語り継がれるような映画にはあるのだ。
このティーンエイジャー向けの恋愛映画にも、どこか人の心に琴線に触れる何かがあった気がする。
最初の1時間ほどは普通のラブストーリーである。
今やハリウッドを代表する若手俳優とヒロインが奏でる恋愛映画だ。
だけど、後半はただのティーンエイジャーものの恋愛映画と違って、どんな人の心にも響くセリフの数々があった。
それは60歳以上の方が見てみると違った見方ができるかもしれない。
また、30歳ぐらいの働き盛りのサラリーマンがみると違った解釈が生まれるかもしれない。
20代の進路に迷っていた昔の自分のような人にも、またどこか心に響く何かがあると思う。
重い病に倒れ、自分の命の灯火を懸命に燃やす18歳の男女が奏でる独特の世界観はきっと多くの人の心にも届くはずだ。
この映画では、人生で一番大切なことは何か?
ということを問いかけている。
「多くの人に自分の存在を示したい」
「誰かに自分を認めてもらいたい」
どこか「自分は特別でいたい」と願っている人もいるかもしれない。
だけど、大勢の人に認められるより、ただ一人にきちんと愛され、認めてもらえることがどれほど幸せで、愛おしいことなのかをこの映画では教えてくれる。
映画「きっと、星のせいじゃない」
ただのティーンエイジャー向けの恋愛映画だと思っていたが、全くそんなことはなかった。
原題の「The Fault in Our Stars」とあるように、
ラストシーンで亡くなった恋人の面影を夜空に探し求めるヒロインの姿を見ていると、
「自分の人生で大切なものは一体何なのか?」と考えさせられてしまう。