読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

ライティング・ハイ

年間350本以上映画を見た経験を活かしてブログを更新

リクルートスーツという仮面に下にあるもの

f:id:kiku9:20170425063343j:plain

 

 

 

この時期になるといつも思い出す。

満員電車の中、会社に向かっていると、たいていは新品のリクルートスーツを着ている就活生が一人はいる。

風貌は社会人に寄せているが、発しているオーラが明らか純粋な学生そのものなので、ぱっと見ただけで、すぐ就活生だとわかるものだ。

就活生はたいていスマホをいじりながら、必死に就活メールをチェックしている。

 

 

私はそんな就活生を見ると、いつも自分の就活をしていた頃を思い出してしまう。

何度の夢に出てきては、悪夢のように苦しまされた就活の日々を……

 

 

 

「就活なんてしないと思います……」

私はゼミの教授にこんなことを言っていた気がする。

教授は割と破天荒な人で、普通の生き方ができない人だった。

だから自分の価値観をわかってもらえると思ったのだ。

 

「確かに君は就活しそうにないな」

そんなことを言われた気がする。

 

 

私はその頃、アホみたいに映画を作っては、アホみたいに映画を見まくっていた。

何ヶ月も準備をして、ゾンビ映画を作ったりしていたのだが、撮影所のアルバイトやプロの現場に潜り込んで、映像の現場に入り込んでいた。

きっとこの道が自分には合っていると思っていたのだ。

 

「で、結局君は何がやりたいの?」

私はフリーのディレクターをやっている人にOB訪問をしている時に、そう言われた。

「映像が作りたいんです」

 

そんなことを言っていたが、心の底で迷いが生じている自分に気づいた。

実際に撮影現場などを見て、プロの現場の過酷さを身にしみて感じていたのだ。

休みもなく何10時間労働が当たり前の世界だ。

学生の自分にもこの世界が異常なことがわかっていた。

 

「映像なんて興味を持つなんてな。この世界は過酷だよ。辞めておいた方がいい」

そんなことを言われた。

 

私は迷っていた。

このまま好きなことを貫いてプロの世界に入るか?

それとも普通のサラリーマンをやるか?

 

私は結局「就活なんてしない」と言っておきながら、時期が来て、周囲の波に飲み込まれるかのように就活をしていった。

このままでいいのかという迷いもあった。

しかし、自分が好きなことを貫き通す自信もなかったのだ。

 

マスコミを中心としたテレビ局ばかりを受けていたと思う。

電通などのちょっとクリエイティブな人なら、自分の才能を見抜いてくれるだろうと、どこか傍観者の目線を持ちながら就活をしていたのだ。

 

そして、結局、落とされまくった。

なんで自分は落ちるんだろう……

その当時は本気でそう悩んでいたと思う。

 

グループ面接なら目立つことを言えば、通過できる可能性があったが、個人面接になった途端、一気に面接の通過率が減っていったのだ。

 

きっと喋りが下手くそな自分が悪い。

コミュニケーション能力を高めれば、きっと就活も上手くいく。

そう思っては、就活対策本を読みあさり、無料セミナーみたいなものに通って、

面接対策をしていった。

 

周囲がどんどん内定を獲得していく中、私は焦っていた。

「あいつ〇〇会社受かったんだって」

「すげーなあいつ」

久しぶりに大学に行くと、4年生は内定が出た会社名の自慢合戦みたいなものを始めていた。

 

そんな人たちを見て私は後ろめたい気持ちになっていた。

私はその時、内定ゼロだったのだ。

 

なんで自分はこんなにも努力しているのに、内定が出ないのか?

やはり内定を何個も取りまくる人は、大学のサークルでも中心的な人物だ。

コミュニケーション能力が高いため、面接官にも好印象を残しやすいのだ。

 

私はというと、面接の度にテンパってしまい、喋りがどもってしまうのだ。

就活の時は、自分のコミュニケーション能力の低さを恨んだ。

喋りが上手い人がのし上がっていく社会の厳しさを学んだ気がする。

 

 

 

私の就活はそんな感じだった。

とにかく苦しんでいた記憶しかない。

今でもスターバックスなどで、エントリーシートを書いている就活生を見かけると、昔の自分と重なって見え、苦しくなってくる。

 

自分もエントリーシートを書いては、落とされまくっていたな……

 

大学を卒業して、数年経っても今でも就活の苦しみが胸の中に残っているのだ。

そんな時、この本と出会った。

 

朝比奈あすか著の「あの子が欲しい」だ。

学生との駆け引きや、ネット上の情報工作……

全力で優秀な学生を確保するために走り回る採用担当者の奮闘を描いた物語だった。

 

私はこの本を読んでいる時、衝撃的だった。

 

え? 採用担当者ってこんなことで悩んでいるの?

 

私は就活する側だった時、「いいから内定をよこせ!」といった態度で面接に挑んでいたと思う。

面接官からいい反応がなかった時は、「あ〜今回もだめだ」と思っていた。

 

しかし、採用担当者からしたら「今回も優秀な学生と出会えなかったか……」

という視点になるのだ。

 

大手企業になると1日何100人という学生を集団面接する。

そして、その中から優秀な学生30人に内定を出しても、優秀な人ほど、他からも内定をもらっているので、内定辞退が出てくるという意味がわからないゲームが繰り広げられるのだ。

 

企業側の採用担当者もいかに内定辞退を減らすか? で奮闘しているのだ。

(このことを考えるといかに日本の就活が不毛なものだとわかる)

 

就活情報サイトに求人を載せると何百万もの大金がかかる。

学生一人採用するにも100万円近くの資金をかけて、選んでいくのだ。

採用担当者も本気で内定辞退を減らし、優秀な学生を囲い込みたい気持ちもわかる。

 

「私たちとしては、会社に守られたいという雑魚には来て欲しくないのよ」

採用担当者は結果を残すため、容赦なく学生を落としていく。

 

 

 

この会社ホワイトだし、なんか面白そうだから受けてみた……

という学生を面接で見抜き、落としていく。

結果的に、本気でこの会社で成長したいと心から思っている人とだけ、内定を出したいと思うのだ。

 

 

私は学生側の視点しか持ってなかったが、企業側の視点を考えるとそりゃそうだなと思ってしまった。

誰だって、なんとかくこの会社面白そうと思った人間と一緒に仕事したいとは思わないものだ。

採用担当者も必死に仮面をかぶった人間を落としていくのだ。

 

私はずっと就活で失敗したのは、コミュニケーション能力の問題だと思っていた。

面接でうまく喋れない自分が悪いと思っていたのだ。

しかし、今ならわかる。

私が就活に失敗した理由……

それは別のものになりたい自分がいたからだと思う。

 

その頃、私は猛烈に映画監督になりたかったのだ。

映画が撮りたくても時期が来て、就活をしなければいけなくなり、なんとかく自分の夢に近いところを受けていたのだ。

 

本心ではテレビや広告代理店といったクリエイティブな仕事をしたいというわけではなかった。自分の夢になんとなく近いことをやっている会社を受けているだけだったのだ。

 

面接ではきっと、腹の底からこの会社に入りたいと思っているいない自分を見抜かれていたのだろう。

私は容赦なく落とされ、優秀な学生を囲い込んでいる輪の中に入ることができなかった。

 

今も就活生を見かけると、いつも自分が就活をしていた時期を思い出す。

リクルートスーツを着た就活生の中で、どれだけ仮面をかぶった人間がいるのだろうか?

本来はやりたいことがあるのに、時期が来てしまい、仕方なく自分の夢と近いことをやっている会社を受けている人がどれだけいるのだろうか?

 

リクルーツスーツという仮の姿を剥がしたとき、その就活生が抱いているものは一体なんなのだろう……

 

「あの子が欲しい」という本を読んで、私はそんなことを思った。

 

日本の就活が理不尽なことはわかりきっている。

学生と企業側の嘘つき大会みたいなものになっているのも知っている。

 

しかし、実際に社会に出てみて、いろんな挫折を味わう中で、就活という制度も悪くないなと気づけた自分もいた。

 

どうせ社会に出ても、辛いことは山ほどある。

人生の早い時期に、自分のやりたいことときちんと向き合い、容赦なく蹴飛ばされる経験も必要なのかもしれない。

 

なんだかんだ言って、私はとことん就活と向き合っていたのかもしれないなと思った。