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ライティング・ハイ

年間350本以上映画を見た経験を活かしてブログを更新

「就職なんかしたくない」と嘆く昔の自分のような若者がいたら、千と千尋の神隠しの「カオナシ」を見てみろと言いたい

 

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「何がしたいかわからない」

 

妹の知り合いである、とある就活生に相談された時のことだった。

彼は大学3年生で、就活の準備をしているが企業のリクルーターから

「君はこの企業に向いていない。自分の価値観を変えなきゃだめだ」

と言われたことを気にしているようだ。

 

「自分はこういうことをしたいという明確な目標がない。

だけど、会社に入ってなんとかやっていける自信もない」

 

彼は早稲田に通うわりと成績優秀な大学生だ。

大手企業に入りたいという意思があるという。

 

「だけど、自分の思い描く会社がなかなか見つからなくて、正直このまま就職していいかわからない」

そう彼は嘆いていた。

 

彼を見ていると昔の自分を見ているように思えて仕方がなかった。

正直言うと、彼のように社会に対する理想が高く、やりたいことがうやむやな就活生は

就活で絶対に苦労する。

 

面接官もうやむやな気持ちをきちんと見抜くし、本人自身も「就職したくない」

と心の底で思っているので、就活も上手くいくはずがない。

 

たぶん、彼はフリーランスとして生きて行く自信もないのだろう。

 

「どうすればいい?」

と私が相談されてしまったのだ。

 

 

どうすればいいんでしょう……?

私も就活で失敗した就活生の一人だ。

自分に聞かれても答えなんて出せない。

 

しかし、大学を卒業して10ヶ月近く経った今ならきちんと仕事に対して言える事もある。

 

私は彼と話している時、自分が就活をしていた頃のことを思い出していた。

 

 

「御社に入社を希望するわけは……」

 

私はなれないスーツを着て、企業の面接に挑んでいた。

3年生までみんなで飲みまくり、遊びまくっていた大学生の多くがある時期を境に

髪を黒く染め、一気に就活する雰囲気へと変わる。

私はそんな就活生の一人だった。

 

とくに行きたい会社はなかった。

しかし、「あいつ、有名な〇〇っていう会社受かったらしいよ」

「やっぱ、あいつは違うな」と周囲から言われたかったがために、大手企業ばかり受けていた。

 

自分は人と違ったものの捉え方をしているクリエイティブな人間だと半ば信じていたのだ。

 

世の中にいる誰かに「君はちょっと人と違った考え方を持っている」

と言われたかったのだ。そう思われたかったのだ。

 

そんな自意識高いやつを雇ってくれる会社があるわけがない。

私は50社以上受けて、ほとんどすべて落っこちた。

 

なぜだ。

なぜ受からないんだ……

 

一人スターバックスエントリーシートを書いている時に周りにいる自分のような就活生を見ていると自分は「何者」なのかわからなくなってしまった。

 

50社近くのエントリーシートを書いても毎日のように不採用通知が飛んでくるのだ。

現代の就活は尋常じゃない精神的負担がかかるのだ。

 

就活のルールがおかしいのはわかっている。

人材派遣会社が作り出した就活という名の市場に踊らされているのもわかっている。

しかし、当時の私には「就活をしてどこか名のある企業に入る」のが最優先だった。

それ以外の選択肢はなかった。

 

結局、運良くテレビ制作会社に内定をいただき、就活を終えることができた。

 

私は就活を終えることができはしたが、ずっとこのままでいいのか?

という不安な気持ちがあった。

 

正解は一体なんなんだろう?

そう思っていたのだ。

 

 

結局、内定された会社で働くことにした。

働くことにはしたが、テレビはイメージ通りブラックな世界だ。

死ぬほど働かせられた。

もう本気で死にそうにもなった。

 

1日30分しか寝れない環境だ。

私は大学時代に自主映画を作っていて映像を作るのは好きだった。

趣味を仕事にできている人はかっこいいと思ってもいた。

 

だから私は趣味を仕事にすることを選んだ。

好きなことだったら耐えられると思っていたのだ。

しかし、好きなことでも楽な仕事はこの世にはなかった。

銀行や広告代理店、メーカー、どこの企業に勤めることにしても仕事は仕事だ。

楽な仕事などないのだ。

 

 

私は1日平均30分睡眠の中、完全にノイローゼ状態だった。

月に一回あるかないかの貴重な休みの時に、友人に会いに行ったら

「お前、目が死んでるぞ」と言われた。

 

入社して数ヶ月で私の体重は8キロ落ちていたのだ。

夜中の3時まで収録したテープの書き出しをして、朝の5時には次のロケの準備をする……そんな生活をしていたらそりゃ痩せるだろと思う。

 

こんなはずじゃなかった……と思った。

もっとクリエイティブな世界に行けると思っていたのだ。

同期は次々と辞めていった。

 

 

結局、私は会社を辞めることにした。

上司に辞めるといった記憶がないほど私はノイローゼになっていた。

 

会社を辞めてから二週間ほど、私は家から動けなくなった。

何をしていいのかわからなかったのだ。

 

本当にどこに向かえばいいのかわからなかったのだ。

そんな時にふと、旅にでも出ようと思い、海外まで行ってみたりした。

東南アジアを1ヶ月ぐらいかけて放浪したりした。

 

ラオスの山奥まで行ってみた。

しかし、どこまで行っても自分の居場所は見つけられなかった。

 

どこに向かっていけばいいんだ……

そう思えて仕方がなかった。

 

結局、何をしに来たのかわからないまま旅を終えて日本に帰ってきた。

転職活動などをはじめてみたが、案の定うまくいかなかった。

日本の社会は一度ドロップアウトした人間にはとても厳しい。

社会のレールから外れたら、もう一度元にいたレールに戻るのは至難の技だ。

 

本当に一度ドロップアウトしてしまうと復活するのは難しいのだ。

転職活動ばかりしていると私はまたノイローゼになってきた。

 

「就職なんかしたくない」と思うようになってきたのだ。

一日に暇な時間を持て余し、私はボ〜としていたと思う。

 

空白の時間ができると人間は鬱になってくるものだ。

自分は暇な時間があることが耐えられない性格なんだなと思う。

 

ひとまず、この暇な時間を減らさなきゃと思い、アルバイトをしようと決意した。

しかし、当時の私はアルバイトすら探せる精神状態ではなかった。

 

 

怖いのだ。

再び仕事を辞めてしまいそうで、アルバイトですら怖くなってしまったのだ。

 

仕事ができない自分が情けなかった。

本当に情けないと思った。

 

SNSなども見れなくなった。

大学や高校の同期はみんな就職していて社会人をはじめていた。

会社で働く愚痴などをこぼしたツイッターなど私は見れなくなった。

 

みんな愚痴をこぼしながらも働いているのだ。

そんな人を見ていると数ヶ月で会社を辞めてしまった自分が情けなくなって、気持ち悪くなった。

 

私が真っ暗闇の中を突き進んでいる時、ふとレンタルビデオ屋なら働けるんじゃないか? と思った。

 

私は大学時代に年間350本の映画を見ていた。

(今思うとだいぶ気持ち悪い)

 

家の近所にあるレンタルショップの洋画の棚は、あ行から最後までほぼ全て見ていた。

あそこなら働けるかもしれない。

そう思って、私はレンタルショップのアルバイト面接を受けてみた。

 

アルバイトの面接をしている時に、店長に

「今までで一番思い出に残っている出来事は何?」

と聞かれたので、何も考えずに

「インドを旅して一人、インド人と戦ったことです」

と答えていた。

 

 

20人近くのインド人に取り囲まれても、走って逃げてきた経験があるので、夜中に変な客が来ても怖くないとかいうことを言っていたと思う。

 

店長に笑われ、私はなんとか採用された。

 

いざ、アルバイトが始まるが、直前まで私は恐怖でいっぱいだった。

また会社を辞めてしまうのではないのか……

 

もう私には自信がなくなっていたのだ。

仕事をしていく自信がなかったのだ。

 

アルバイトの出勤日が来て、いざ勤務となった。

DVDの返却方法などを教わり、棚にDVDを戻す作業から始めた。

約数ヶ月ぶりに働く仕事である。

 

大学生の頃はこんなにも仕事に恐怖を抱くことがあるなんて思いもしなかった。

なんとか気持ちを振り絞ってアルバイトに懸命に挑んでいった。

 

するとどうなったのか……

仕事が楽しくなったのだ。

 

もともと私は接客業が大の苦手だった。

今でも苦手意識がある。

 

しかし、就活に失敗し、社会からつまはじきにされた時に、再び働き始めたら

お客様に声をかけることですら楽しくなったのだ。

 

仕事自体が楽しくなったのだ。

一日にできた空白な時間を埋めることができ、私の転職活動もうまく行き始めた。

結局、とある会社から内定をいただき働けることになった。

 

 

そんな経験を得てきたので、私は働きもせず家でじっとしているフリーターやニートがいたら、こう言いたいと思う。

 

人間働かないと鬱になる。

 

何もすることがないとどんどん鬱になってきてしまうのだ。

もちろん働きすぎもどうかと思うが、働かなさすぎもダメなのだ。

 

人間、毎朝きちんと起きて、働いて、飯を食って寝るという生活リズムを取らないとおかしくなってしまう。

 

家に一日中じっとしていると死んでしまうのだ。

 

自分の仕事観が変わり始めた頃、私はふと「千と千尋の神隠し」を見ることがあった。

 

2001年に大ヒットした映画だ。

もちろん私は見たことがあった。一番初めに見たのは小学2年生の時だった。

それから年に一度はテレビで流れていて、何回か見直す機会があった。

 

私は何度見てもあることが疑問でしかたがなかった。

 

それは「カオナシ」っていったい何なの? 

ということだった。

 

千と千尋の神隠し」を見たことのある人は多いかと思う。

興行収入300億円の映画だ。

 

昨年大ヒットした「君の名は。」が興行収入200億円だから、

ジブリの凄さが改めてわかるだろう。

 

 

日本人の多くが一度は見たであろうこの映画だが、ほとんどの人の感想が

「よくわからなかった」である。

 

確かによくわからないのだ。

カオナシ」っていったい何なの?

何で千尋はあの街に行ってしまったの?

銭湯に来る神様はいったい何なの? など疑問に思う点がいっぱいあるのだ。

 

グーグルで調べてみると「カオナシは人間の欲望の塊みたいな存在だ」と書かれてあったりしたが、私にはピンとこなかった。

 

 

しかし、最近わかるようになってきた。

プー太郎のニートを経験してからこの映画を見直してみると宮崎駿が「カオナシ」にこめた思いがわかったのだ。

 

私はその時、映画を見直していたら「カオナシ」が自分に見えてしまったのだ。

カオがないアイデンティティーが消滅した存在。

 

とくに何がしたいのかわからず、やることもなく、さまよっているうちに

偶然出会った千尋に優しくされ、千尋について行ったのだ。

 

結局、「カオナシ」は金で千尋の気を惹こうとした。

しかし、千尋に拒まれ、怒り狂って銭湯で大暴れするのだ。

 

カオナシ」って現代の若者の象徴なのかもしれないと思った。

やりたいことが見つからず、一日の大半をぼっとしているだけで過ごし、アイデンティティーが消滅している存在。

 

私はその時、「カオナシ」に感情移入してしまったのだ。

暴れ狂う「カオナシ」の気持ちもわかってしまったのだと思う。

 

結局、「カオナシ」はどういった結末をたどることになったのか?

千尋について行った先で、銭婆に労働をもらうのである。

 

銭婆に雇われることになった「カオナシ」は心から嬉しそうだった。

カオナシ」は誰からも何かを頼まれることがなかったのだろう。

労働を与えられることによって、やっと幸せそうな顔になったのだ。

 

 

労働が人を幸福にする。

 

そんな考えが宮崎駿の根底にはあるのだと思う。

「今の若者はアニメばかり見て現実逃避している。そんな世界を作った一因は自分にあるのかもしれない」

そんなことをどこかのインタビューで彼は答えていた。

 

自分がしてきたアニメ作りというものに、どこかしら後ろめたさや戦争犯罪と同じような意識があったのかもしれない。

 

そのような思いがあるからこそ、「もののけ姫」以降はきちんと子どもたちに現実の社会を見せるような作風に変わっていった。

 

 

よく見てみたら「千と千尋の神隠し」は労働についての物語だ。

銭湯で働くことになった千尋は、はじめはきちんと挨拶もできなかった。

しかし、リンなどの先輩に支えられながら労働を通じて成長していくのだ。

 

何もすることがなく世の中をさまよいアイデンティティーが消滅していた「カオナシ

は人から仕事を頼まれて嬉しそうだった。

 

 

「就職なんてしたくない」と嘆く昔の自分のような就活生やニートがいたら

千と千尋の神隠しの「カオナシ」を見てみるのがいいのかもしれない。

 

働くことによって、人は人らしくなれるのだ。

きちんと毎日、規則正しい生活をして、誰かのために労働をしないと人間は死んでしまうのだ。

 

千と千尋の神隠し」はそんなことも考えさせられる素晴らしい映画でもあったのだと思う。

何度見直しても奥が深い物語なのだ。

 

 

 

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