ライティング・ハイ

年間350本以上映画を見た経験を活かしてブログを更新

新海誠監督の「君の名は。」を見て、女優の蒼井優が言っていた「コンテンツの質=おじさんの中に眠るイケナイ少女性」を思い出した

f:id:kiku9:20170126121001j:plain

 

 

君の名は。面白かったよ」

去年の9月だっただろうか。

世間が「君の名は。」旋風で話題になっている中、私も友人にこの映画をオススメされた。

 

とにかく、泣けるから見て欲しいということらしい。

 

新海誠の最新作……

 

そんなに面白いのか?

 

私は新海監督のこれまでの作品は全て見ていた。

繊細な感性を持っていて、どこか中学二年の頃のモヤモヤを抱えている人を描く作家だなと思っていた。

 

言の葉の庭」を見たときは驚いた。

 

ぶったまげた。

 

こんな繊細な感性を映像に落とし込める人がいるのかと思った。

 

例えば、村上春樹の小説を映像化したらこの世界観が生まれてくるのかもしれない。

誰しもが持つ感受性を映像にするのがうまい。

 

自分なんて逆立ちしても、こんなアニメを作れる気がしなかった。

(まず、絵を描くとこが出来ないが)

 

そんな新海誠監督の最新作と聞いて、私はワクワクしていた。

それと同時に、大衆受けするということは、万人受けのコンテンツになっていて、

新海誠ファンをがっかりさせる結果になっているのでは? と思った。

 

チケットを予約し、映画館に行く。

映画館は人でごった返していた。

 

去年の10月の話だ。

君の名は。」旋風が日本中で沸き起こっていた頃だった。

もちろん映画館の中はカップルでごった返していた。

 

両サイドを中高生のカップルに挟まれ、私は居心地の悪さを感じつつも、

映画が始まった。

 

映像が美しい。

それと音楽が映像にぴったり合っている。

 

 

やはりアニメーションは羨ましいと思った。

 

絵なので、架空の世界を描くことになるのだが、新宿駅の実写映像を

アニメーションにすると、本物よりもリアルに見えて、愛おしく思えてくる。

 

 

普通の実写映画で新宿駅を映しても、何も感じることはないと思う。

しかし、アニメーションで新宿駅を描いたら、どこか懐かしい、愛しい風景のように思える。

 

ありふれた日常の風景が愛おしく思えてくるのだ。

 

私は「君の名は。」を見ているうちに、自然と主人公の一人、三葉に感情移入してしまった。

この映画は男女で感情移入できる対象が違うのかもしれない。

 

男なら間違いなく三葉のことを追いかけて見てしまうだろう。

 

女の子なら神木隆之介くん演じる、滝くんのことを追いかけて見てしまうのだろう。

 

映画が終わる頃には会場は感動にあふれていた。

 

普通に泣ける映画だ

とてつもなくいい映画だ。

 

世界中で話題になるのもわかる。

 

しかし、一つだけ気になったことがあった。

それは、この映画は男子の理想とされる女の子を描かれている映画でもあるなということだった。

 

小説家でも映画監督でも、そうだと思うが……

男がものを書いたり、作品を作ると作中に自分が理想とする女性像が描かれていることが多い。

 

無意識のうちに、主人公を女性とすると、

こんな窮地の時は、こんな行動をとる。

この子はこの時、こんな発言をする……などと考えているうちに、

どんどん自分の理想とする女性像になってくるのだ。

 

 

それは仕方ないことなのかもしれない。

クリエイターにとっての宿命かもしれない。

 

そんな理想の女性像を描かれた映画は、すこぶる男子のウケはいい。

しかしだ。

女性から見ると、明らか男が求める理想の女性像がスクリーンに映し出されているため、なんだか腑がない気分になるらしいのだ。

 

こんな女いるわけないじゃん!

と思えてくるらしいのだ。

 

実際、「君の名は。」を見た私の妹は

「正直、よくわからなかった」と言っていた。

 

男による理想の女性像が描かれた映画は、女性にとって、物語の世界に入り込める人と苦手な人がいるみたいだ。

 

 

君の名は。」を見ていると、明らか主人公の三葉は、新海誠監督やプロデューサーの川村元気さんが抱える理想の女の子像が入ってきていると思う。

 

私も学生時代に自主映画を作っていたから、なんとなくわかる。

物語の中に理想の女の子を描く方が、映像を作っていて楽しいのだ。

のめり込めるようになるのだ。

 

タイタニック」なども監督のジェームズ・キャメロンが描く理想の女性像が入っていたと思う。

 

クリエイターは自分が抱える変態チックな部分を吐き出す方がいい作品ができるのかもしれない。

 

理想の女性を描いた作品の方が評判がいいのかもしれない。

 

新海誠監督の「君の名は。」を見て、私は昔、女優の蒼井優さんが番組で言っていたコメントを思い出していた。

 

確か、岩井俊二監督の「花とアリス」の時に特集されたNHKの番組だったと思う。

岩井俊二監督が目の前にいる中、司会者に

岩井俊二監督の作品は少女漫画チックと言われるが、実際演じてみてどう思ったのか?」

と聞かれた時に、蒼井優さんはこう答えていた。

 

「おじさんの中に眠るイケナイ少女性……」

 

苦笑する岩井俊二監督。

ざわつく会場。

 

私はその映像を見てハッとした。

なるほどなと思った。

 

蒼井優曰く、

「おじさん達の中に眠る少女性は女性にとって愛おしい存在なんです。

おじさん誰もが、心の中に少女性を持っているんです」

 

10代、20代の若者が持つ女性像は、いろんな誇張が入った盛られた女性像だ。

その女性像は、大抵の女性からしたら、鬱陶しい存在らしいのだ。

 

しかし、40代、50代のおじさんが持つ女性は、社会に出て仕事をして、女房もでき、子供も生まれ、多くの経験をしていく中で熟成された女性像だ。

 

女の子にも振られたろう。

不倫もしたのかもしれない。

 

多くの現実的な葛藤の中で、ろ過されていった女性像がにじみ出ているのがおじさんの中に眠る理想の女性像だ。

 

いろんな現実とぶつかる中でも、ろ過され続けて残った純粋な女性像は、女性からしたら愛おしい存在らしいのだ。

 

だから、岩井俊二監督が描く、女の子は、女性からも人気なのだという。

男子から見ても可愛いし、女性から見ても可愛い女の子が映画で描かれているのだ。

老若男女に受けるコンテンツになっているのだ。

 

 

私は「君の名は。」を見ていて、三葉に滲みてていたのは「おじさんが持つイケナイ少女性」なのかもしれないなと思った。

 

もし、「君の名は。」を20代の天才肌の若手監督が撮っていたらどうなっていたのだろうか?

多分、同じ脚本でも全く違った形になっていただろう。

 

君の名は。」はおじさんたちが持つ少女性がにじみ出ているからこそ、

男性からもウケるし、すべてとは言えないが女性からもウケる可能性を秘めた作品なのだと思う。

 

20代の私はまだ、おじさんの中に眠るイケナイ少女性を持っていないのかもしれない。

 

しかし、私がおじさんになった時に「君の名は。」のようなハイパーコンテンツを作れるようになれたらと思い、ライティングに励んでいる。